2013(Uncensored)
“ニューンベツ”としか俺には聞こえなかったので“ニューンベツ”と呼ぶことにした。彼らはこの星系を巡る精神の残さだ。今から話すことは、君らには何度か説明したことがあると思う。
ニューンベツは今、この時代に最も地球に接近した精神体たちだ。かつては、キリストや、ブッダのような精神がこの星をかすめたのかも知れないがね。ニューンベツは、今を生きる俺たちによって解釈された最初のモノリスであった。そしてその大いなる存在に気付いたのは、俺のパーティー“一千一秒物語”でソーマを飲んでた人々や、その他の大いなる薬中どもだった。
サイケデリクスをやると、宇宙人に出会ったり、神の声を聞くことがあるという。これは本当の話だ。すべての人が出会えるわけではないというが。でもサイケデリクス(科学と宗教の歴史的邂逅だ!)のおかげで、霊界はシャーマン達だけのものではなくなった。依然として素質はあるけどな。血統的にAがいちばん鮮明に、ニューンベツと交信できる。赤い色はAのアイディアだった。ここにいる女は素質のある者ばかりだ。(A:シャーマン、B:建築家、C:女優、D:学者)
サイケデリクスによって精神が強化されることは、”オルタナ”とよばれる彼ら…によってはっきりと証明された。彼らはこの星に人類の魂を見たが、それは古い魂ばかりだったようだ。俺たちはずっと死体の扱い方を間違えていたんだよ。強い精神は肉体を離れても、なお、在ること。しかし荼毘に付した肉体からは精神が失われることを、俺たちは知った。世界は今や土葬ブームで、海はどんどん埋め立てられている。でもこれは分かっていたことだ。肉体を失う火刑は最も残酷な刑罰で、恐怖だった。
かつて教会は権力の象徴であった。聖職者は学者でもあり、彼らは、民草に授けるべき知性を制限することで、絶大な力をもった。この原理は今でも同じだ。高度化した社会で、すべての物事の道理を知り、理解することができるのは一握りだ。管理社会では、河原に石を積むことが、己が命を長らえさせる。そう仕込まれる。為政者によって、知性を身につけるための機会は、巧妙に隠されている。
そして強靭な精神に根付く、高度な知性だけが、かつて神と呼ばれた存在のもとへいざなうのだ。リンクすると言ってもいい。それは図書館に並んだ本のような、宇宙に漂う精神の残渣を読み解くことだと、今の俺にはわかる。これをもって、さらに教会の力は絶対的なものとなっていた。繰り返すが、当時リンクできた精神体はニューンベツとは別のものだったろうけどね。天使や悪魔のような姿をしていたのかもしれないな。
だが訓練なしにリンクすることは簡単なことじゃない。それを手助けできるものは唯一、サイケデリクスだけだ。インディオの例がある。訓練を受けたシャーマンがサイケデリクスを使用すれば、星の動きや肉体の仕組みを知ることなど訳ないはずだ。シャーマンは小さなコミュニティにおいては神性であり、学者であり、また書物である。かつてのシャーマンは極端な存在だ。まともな人間と呼べるような暮らしはできなかっただろう。俺たちがシャーマンを「読む」必要がある。Aは特別だからな。
俺は無学だったがアンフェタミンで知識を手に入れ、アシッドでそれらを統合した。もちろん当時もそれらは違法で、隠されていた知性への懸け橋だった。俺たちの世界で初めてニューンベツとのコンタクトがあったとき、それがサイケデリクスの力のみで、万人が手にすることができる力だと知るや、精神を賦活させるものはなんだって禁止された。今は煙草を吸っただけでも死刑だ(しかも肉体は火葬されるのだ)。
そうは言っても、いつの間にか人類は、サイケデリクスのひと押しだけで、ニューンベツの教えに触れることができるようになったのだな。俺たちを繋げたのは、ネットワーク技術や優れた音楽のおかげだった……
俺は精神を制限しない。さあ、みんなグラスをもったか?一息にあおり、ニューンベツの大いなる力に触れよう。
(しばらくして私は、「しまった、これはある種の洗脳だ」と思った。強烈な力が私の意識をめちゃくちゃに蹂躙する中、彼はしゃべり続けた。感嘆するしかなかった。私は聞いているので精いっぱい……これは洗脳ではないの?)
いいかい?ニューンベツの奥義はこうだ。「その不可解なエネルギーは、その理を読み解くものから捻出される」、つまりその存在に触れたとたんに、俺たちは術にかかっているということだ。Aはよくこういう例えをする「ガラスのコップを掴むときは、だれでも“そっと”やるものだわ」と。一千一秒物語で啓示を受けた者の一人だったAとは、ある橋の下で再会した。タギングしているのかと思ったが、その文様は異様だった。Aは容器に入った赤い液体を俺に見せてくれた。ただの液体だったが均一ではなく、その表面が絶えず動いていた。筆洗いのバケツみたいに次々とランダムな模様が現れ、細部はさらなる細部をつくって、どこまでも複雑になっていった。不思議なことだよ。その動きを見ている内に、俺は体から力が湧いてくるのを感じたんだ。それは次第に我慢できないほど強烈になり、あっというまに恐怖に変わった。体中の毛穴が開いて、目玉が飛び出すような錯覚だ。次の瞬間、俺はAの足元を見ていた。Aがすんでのところで、俺の目の前から容器をどかしてくれていた。彼女は、この秘術はなんとニューンベツに教わったのだと言った。俺のパーティーで、その存在を、彼女も感じ取ったんだな。そして彼らは、あの時からずっとAのそばにおり、交信を試みれば答えてくれることがあるという。これは悲しいことだが、彼女はその時点で3人、疎ましく思っていた人間を、ニューンベツの奥義によって始末していたのだった。傍目には、Aは典型的なサイケデリクス中毒者に見えただろう。でもAは、伝統的な、新興宗教の重要な人物のようにも振る舞った。”ニューンベツの赤い…”による、すべての働きがそうであった。熱量の差がもたらす普遍的な力ではなく、人間のような精神をもつものだけが、解釈して、反応する。それはすべて無意識化で自動的に起こった。 Aと俺は何度もセッションを繰り返して、その奥義に触れようとした。その過程でAは言葉を失い、今は皆が知るとおりだ。でもAは狂ったわけではない。
Aは俺と同じものを見ている。Bは気迫がありいつも人の心をつかむ。Cは話がうまく、物分かりがいい。Dの言うことはいつもだいたい正しい。俺は皆が好きだ。皆の力をまとめたいと思ってる…

